泉のある場所

 
 元気にしてますか
 もう12年
 あなたに会えていません
 お母さんはもう
 十(とお)もあなたの歳を追い越しました

 毎年この時期になると
 あちらこちらで目にする
 『父の日』の文字に
 胸が締めつけられます

 私は本当にたくさんのものを
 あなたに貰いました
 お返しすることができず
 申し訳なく思っています

 そちらから見えますか
 私の中に
 泉があります
 あなたが残していってくれたものです
 疲れても傷ついても
 この水が癒してくれます
 誰かに分け与えても
 決して減ることはありません
 この泉があるから
 私は大丈夫です

 また会えたときには
 胸に飛び込んで
 ありがとうと言わせてください


 
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on 2026/05/24

 地下水流を辿って


 地下水流の音を聞いた
 それは
 小学校の前を歩いているときだった
 街まで出てしまうと
 その音は遠ざかっていった

 僕は何か
 大切なことを忘れてしまったのかもしれない

 雑踏の協奏曲の中で
 クラクションが怒声を上げる
 横断歩道でカッコウが鳴く

 僕は何かを
 思い出そうとしているのかもしれない

 すり減った靴底の
 遥か地中奥深く
 血管のように走る水脈よ
 僕の足音が聞こえるか
 僕には聞こえる
 絶え間ない水の音が

 揺るぎないその流れを
 静かなるその決意を
 僕の足元に
 響かせてくれ

 
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color 群青
on 2026/01/1

 ノンフィクション

 

 ページを捲れば波の音

 指に残った砂の粒


 そのうち消えると知りながら

 砂に思い出を刻み

 いつか終わると知りながら

 波の物語を辿るうち

 自分で描きたいと

 思うようになったの


 出来すぎたフィクションでいい

 自分で描いた筋書きなら

 それはノンフィクション

 「物語を生きる 」ことに

 どんな違いがあるというの


 世界中どこにも存在しない

 奇抜なフィクションでもいい

 あなたが望んだ物語なら

 それはノンフィクション

 そこで生きるあなたを

 私はそばで

 見ているわ



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on 2023/07/18

 風の吹く丘

 

 春に出逢ったあなたの

 冬衣装が眩しい

 時の流れとは

 思い出へと

 色づくことなのですね


 新しい風が吹けば

 色はすっかり変わるでしょう

 新しい風が吹けば

 時が人をも連れ去るでしょう

 新しい風が吹いても

 あなたは私を

 仰ぎ見てくれるでしょうか


 背筋を伸ばし

 この丘に立つ


 両手を広げ

 その風を待つ


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color 薄青
on 2022/02/19

 クラシックタウン

 

 私の心は乾いていた

 雨の音でそれに気づいた

   

 街を弾(はじ)くピアニスト

 誰かの頬を滑り降り

 アスファルトの色を変える


 私の心は眠っていた

 目が覚めたことでそれに気づいた


 窓を伝う幾筋もの

 涙が世界を塗り替える

 演目のないクラシック


 ただ一心に降り注ぐ

 あなたのようになりたかった

 それが私の夢だった


 雨垂れの躊躇に構いもせず

 あなたは私をノックする

 それはもうほんとうに

 終わってしまったことなのかと


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color 臙脂
on 2021/02/02

 旅の途中で


 見知らぬ街の見知らぬ場所も
 いつか過ごしたあの街に
 どこか似ている

 通りすがりの見知らぬ僕を
 ちらりと見やり
 見知らぬ街は暮れていく

 小さなアパートの前で
 ボール遊びする子供たち

 夕飯の匂いのする道
 茜色のメロディ

 さぁもう帰る時間だよ
 会いたい人が待ってる

 迎えてくれるその人は
 いつまでもいてくれるわけじゃない

 長く果てしない休みだって
 いつかは終わりがくるように


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on 2020/02/29

 Over the river

 

 その河は

 水の冷たさを知っている

 その河は

 流れの厳しさを知っている


 それでも身を浸せという

 その身をもって確かめるのだと


 Over the river

 貫く冷たさで

 甦る体温がある

 Over the river

 この痛みを知らなければ

 泳ぎだせない海がある


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color 深紅
on 2009/07/16

 中心

 

 何かが足りないと


 思わなくていいように


 何もない場所へ行きたい



 ここから出ていきたいと


 思わなくていいように


 遥かな場所へ行きたい



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on 2009/02/25

 この海のどこかで

 

 私が落とした一滴を


 すくって飲む人がいる


 それが涙でも


 それが毒でも


 私が捨てた一滴を


 吸い上げる草がある


 それが薬でも


 それが毒でも


 

 そうして今日も


 いま この瞬間も


 この海のどこかで


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color 深紅
on 2009/01/22

 しんぷる

 

 ぼろぼろのときは


 こころがきゅっとひきしまる


 ぐちゃぐちゃのときは


 こころがすっとたちあがる



 もんだいがふえるほど


 じんせいはずっと


 しんぷるになる


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on 2009/01/04

 独白の檀上

 

 あなたを見ると切なくなるのは

 私がとうに棄ててきたものを

 まだ大切に 持っているから


 あなたを見ると苛立つのは

 私が必死に隠しているものを

 堂々と首から ぶら下げているから


 あなたを見ると哀しくなるのは

 今このときがいつか思い出になることを

 どこかで分かっているから


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on 2008/07/30

 今、静かに目を閉じて。

 

 風も生きてるんだろう

 時々 声を上げて泣くから

 雨も生きてるんだろう

 落ちてもまた 空へ還るから


 誰かの “悲しい” は

 僕の “悲しい” じゃないから

 なかなか分からない


 誰かの “痛い” は

 僕の “痛い” じゃないから

 なかなか分からない


 だから時々 空を見上げる

 だから時々 目を閉じる


 君もひとりで

 泣いたりするのかな


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color 群青
on 2008/05/22

 沈黙のレフ

 

 歩みを忘れ

 瞼でシャッターを切る


 あなたは自分がどんなに美しいか知らない

 そこにいるだけでもう誰かの

 光と闇に交差していることを知らない


 ただの一度でも

 振り向いてくれたなら

 この世界は変わるのに


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color 薄紅
on 2008/04/15

 さくらみち

 

 さくらいろのみちは


 立ち止まれない


 流れゆく春の川



 地中深く根を下ろし


 この場所で咲くひとよ



 あなたを抱えて


 進むことはできない


 どれほどそうしたくとも


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color 薄紅
on 2008/04/05

 記憶の選別人

 

 早送りの雲の流れを

 見上げる僕はストップモーション


 どんどんどんどん忘れていく

  忘れたくないことばかり


 みるみるうちに目覚めていく

 さよなら告げたものばかり


 頭の中の選別人は

 今日も休まず作業を進める

 僕の許可も得ないまま


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on 2008/03/09

 星の交換手

 

 君が星に気づいたとき

 はじめて光は君に届く

 君が光を受け取ったとき

 はじめて光は輝きを放つ


 まるで

 たった今 生まれたかのように

 まるで

 たった今 出逢ったかのように


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on 2008/02/09

あの人はその人を待っている

 

 その人は

 その人らしいやり方で

 その人の望むように

 その人になっていく

 

 その人が

 その人になるのをやめたら

 その人であることを放棄したら

 その人は何処へ行くのだろう


 その人を待つあの人は

 何処かで泣くだろう

 その人を知ることもなく

 流れる涙にも気づかないまま

 ただ泣くだろう


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on 2008/01/02

 定例アクシデント

 

 新聞にも載らない小さな事件が

 今日も僕を悩ませる

 悩みたい 悩むことで

 背負いたい 背負うことで


 カチリとネジが

 巻かれるから


 今日も僕は生きています

 これが生きるということなら


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on 2007/11/05

 喪失のトンネル

 

 僕は 一体誰なのか

 忘れてしまったのに

 誰かが呼んでいるような気がする


 僕はどんな人間だったのか

 忘れてしまったのに

 行かなければいけない場所が

 あるような気がする


 君が 一体誰なのか

 忘れてしまったのに

 放っておくことが

 どうしてもできない


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color 群青
on 2007/10/15

 揺れる

 

 揺れるときは

 おもいっきり揺れる


 グラグラして

 フラフラして

 ワナワナする


 そうしていれば

 ちょっとやそっとじゃ

 倒れない



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on 2007/09/28